【会計処理】圧縮記帳について税理士が解説!③〜保険差益〜
2024/08/29
はじめに
みなさんは「圧縮記帳」という会計処理をご存知でしょうか。圧縮記帳とは、節税対策のうち繰延節税を目的として行われる会計処理であり、固定資産の取得等をした際に、一定の要件を満たした場合に、取得等のために享受した利益に対する課税を繰り延べる効果を持っています。
今回はこの圧縮記帳のうち、保険差益の概要及び論点について解説します。
圧縮記帳とは
圧縮記帳は、節税対策のうち繰延節税を目的として行われる会計処理です。例えば、固定資産の取得のために補助金等の交付を受けた場合、補助金は受領時に「国庫補助金受贈益」という、企業の利益として計上されます。つまり、その補助金を受領したことにより法人税等の負担が大きくなってしまいます。よって、せっかく補助金をもらったとしても、一部しか固定資産の取得のために使用できなくなってしまいます。そこで、圧縮記帳という会計処理を用いることによって、当該利益に対する課税を繰り延べることができるという仕組みです。
保険金等の交付を受けた場合
例えば、所有する固定資産が火災や地震等により滅失・損壊した際、当該固定資産に対し火災保険や地震保険等の保険を付していた場合、保険金を受け取ることができますが、当該保険金は受け取った際に企業の利益として計上されてしまいます。つまり、本来はその保険金を利用して、滅失・損壊した固定資産の代替資産を取得したり、改良をしたいと思っても、一部が法人税として負担となってしまうということです。
ここで、その滅失または損壊のあった日から3年以内に、支払の確定した保険金等※1 の支払を受け、代替資産※2 を取得するか、資産の改良をした場合(以下、「取得等」と言います。)は、圧縮記帳の会計処理が適用できます。
また、法人が保険金等の支払に代えて、代替資産の交付を受けた場合にも、その代替資産について、圧縮記帳の適用を受けることができます。
なお、圧縮限度額については、国庫補助金等の交付を受けた場合と異なり、保険金等の額全額ではなく、下記の一定の計算式に基づいて算出された金額までとなります。
圧縮限度額
・保険金等の支払を受けた場合
※ 保険差益金の額 =(保険金等の額 ー 滅失・倒壊により支出した経費)ー 滅失・倒壊した固定資産の帳簿価格
・保険金等の支払に代えて代替資産の交付を受けた場合
圧縮限度額 =(代替資産の価格 ー 滅失・倒壊により支出した経費)ー 滅失・倒壊した固定資産の帳簿価格
具体例1(直接減額方式)
被害(滅失)直前の帳簿価額 : 450万円
滅失・倒壊により支出した経費 : 50万円
保険金等の額 : 1,000万円
代替資産の取得価額 : 1,500万円
耐用年数:5年(定額法)
仕訳 | |
固定資産が滅失し、保険金を受領した |
減損損失 450万円 / 機械装置 450万円 経費 50万円 / 現預金 50万円 現預金 1,000万円 / 保険金収入 1,000万円 |
代替資産を取得した |
機械装置 1,500万円 / 現預金 1,500万円 固定資産圧縮損① 500万円 / 機械装置 500万円 |
減価償却の計上 | 減価償却費 200万円 / 減価償却費累計額 200万円 |
① 圧縮限度額 = (1,000万円 ー 50万円)ー 450万円 ×(950万円 ÷ (1,000万円 ー 50万円))
※1 保険金等には、固定資産の滅失等により支払を受ける保険金のほか、一定の共済金や損害賠償金も含まれます。ただし、下記のものは含まれません。
・棚卸資産の滅失等により支払を受ける保険金等
・固定資産の滅失等に伴う営業休止期間の休業補償金等
・他人から賃借中の固定資産に係る保険金等
※2 代替資産は固定資産の種類の区分が同様であればよく、構造、用途、細目まで同一である必要はありません。
固定資産を事後取得する場合の会計処理
保険金等の受領と固定資産の取得等との間に決算を迎えた場合には、国庫補助金等の交付を受けた場合と同様に、特別勘定を用いて圧縮記帳を行うことが可能です。
具体例2(直接減額方式)
被害(滅失)直前の帳簿価額 : 450万円
滅失・倒壊により支出した経費 : 50万円
保険金等の額 : 1,000万円
代替資産の取得価額 : 1,500万円
耐用年数:5年(定額法)
1年目 | 仕訳 |
固定資産が滅失し、保険金を受領した |
減損損失 450万円 / 機械装置 450万円 経費 50万円 / 現預金 50万円 現預金 1,000万円 / 仮受金① 500万円 / 保険金収入 500万円 |
2年目 | 仕訳 |
代替資産を取得した | 機械装置 1,500万円 / 現預金 1,500万円
仮受金 500万円 / 機械装置 500万円 |
減価償却の計上 | 減価償却費 200万円 / 減価償却費累計額 200万円 |
① 圧縮限度額 = (1,000万円 ー 50万円)ー 450万円 ×(950万円 ÷ (1,000万円 ー 50万円))
保険金が事後交付される場合の会計処理
上記とは反対に、固定資産の取得と補助金の交付の間に、決算を迎えた場合には、下記のように通常とは異なる特殊な処理を行うこととなります。ただし、保険金等が損害賠償金のみである場合には、この方法による圧縮記帳は適用できません。
具体例3(直接減額方式)
被害(滅失)直前の帳簿価額 : 450万円
滅失・倒壊により支出した経費 : 50万円
保険金等の額 : 1,000万円
代替資産の取得価額 : 1,500万円
耐用年数:5年(定額法)
1年目 | 仕訳 |
固定資産が滅失した | 減損損失 450万円 / 機械装置 450万円
経費 50万円 / 現預金 50万円 |
代替資産を取得した | 機械装置 1,500万円 / 現預金 1,500万円 |
減価償却の計上 仮勘定の計上 |
減価償却費 300万円 / 減価償却費累計額 300万円
仮勘定 500万円 / 減損損失 450万円 / 経費 50万円 |
2年目 | 仕訳 |
保険金等を受領した | 現預金 1,000万円 / 保険金収入 1,000万円 |
圧縮損の計上①② 仮勘定の取り崩し |
固定資産圧縮損 400万円 / 機械装置 400万円 減損損失 450万円 / 仮勘定 500万円 経費 50万円 |
減価償却の計上③
|
減価償却費 200万円 / 減価償却費累計額 200万円 |
① 圧縮限度額 :(1,000万円 ー 50万円)ー 450万円 ×(950万円 ÷ (1,000万円 ー 50万円))=500万円
②(補助金の交付時の固定資産の帳簿価格 - 特別償却準備金の残額)×(圧縮限度額 ÷ 固定資産の取得価格)
=( 1,200万円 - 0 )×( 500万円 ÷ 1,500万円 )=400万円
③(固定資産の取得価格 - 国庫補助金等の額)× 償却率
=( 1,500万円 - 500万円 )× 0.2
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は保険金を受領した際の圧縮記帳について、一部の論点を解説しました。前回解説した国庫補助金等よりも、圧縮限度額の考え方が複雑だったりするため、適用にあたってはお近くの専門家に相談の上、誤りのないようにしましょう。
次回は固定資産の交換をした場合の圧縮記帳の論点について解説します。
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