【所得税】住宅ローン控除の論点を税理士が解説!〜⑨連帯債務割合と住宅の持分割合とローンの支払が異なる場合〜
2024/05/17
はじめに
皆様は住宅ローン控除を利用したことがありますでしょうか。
マイホームの購入等に当たっては、通常金融機関から借入を行うこととなりますが、住宅ローンは人生においてとても大きな決断であり、相当なプレッシャーがかかるものかと思います。さらに住宅ローンは通常長期間にわたって金利負担が大きくのしかかり、経済的にも圧迫を受けることとなります。こうした負担を軽減するために制定されたのが住宅ローン控除(正式名称は「住宅借入金等特別控除」と言います。)です。
今回はこの住宅ローン控除について、細かい論点を含め解説いたします。なお、今回は令和5年度の所得税の申告時点に基づく法令にて解説を行いますので、令和6年度の確定申告にあたって改正されたものが公表された場合には、順次解説いたします。
なお、住宅ローン控除の基礎的な情報をまとめたものや、年末調整時に記入する「住宅借入金等特別控除申告書」の書き方などを、別途当ブログにて解説していますので、ぜひそちらも併せてご覧ください。
【基礎論点】所得税の仕組みを税理士が解説!⑮税額計算及び税額控除(住宅借入金等特別控除)
【2023年】年末調整の全てを徹底解説!⑤〜住宅借入金等特別控除申告書の書き方〜
住宅ローン控除の概要
住宅ローン控除とは、個人が住宅ローン等を利用してマイホームの新築、取得または増改築等(以下「取得等」といいます。)をした場合で、一定の要件を満たすときに、その取得等に係る住宅ローン等の年末残高の合計額等を基として計算した金額を、居住の用に供した年分以後の各年分の所得税額から控除する制度のことをいい、細かく「住宅借入金等特別控除」と「特定増改築等住宅借入金等特別控除」に分かれます※ 。
第9回は連帯債務割合と住宅の持分割合とローンの支払が異なる場合の注意点について解説します。
※ 令和4年以後に住宅ローン等を利用し、特定の増改築等を行い居住の用に供した場合には、特定増改築等住宅借入金等特別控除を受けることができません。
連帯債務割合と住宅の持分割合とローンの支払の関係
前回『【所得税】住宅ローン控除の論点を税理士が解説!〜⑧住宅を共有名義にした場合〜』解説したように、住宅ローンのうち連帯債務型とペアローンの場合、住宅を共有名義とすることによって夫婦の両方が住宅ローン控除を受けることができます。
しかし昨今は、本当は単独所有を考えていたのに、一人の収入では審査が通らないケースも多く見受けられることから、仕方なく連帯債務型やペアローンを用いて住宅ローンを借りたが、実際は一方がまとめて住宅ローンを返済するため、単独名義にしたい、あるいは持分割合は変更したいという世帯もあるかと思います。
しかし連帯債務の負担割合は、所得金額等に応じて合理的に定める必要があるため、自由に負担割合を設定することはできません。したがって、連帯債務割合と住宅の持分割合、実際のローンの支払が異なる事となりますが、この場合、注意しなければいけない点がいくつかあるため、下記にてパターンごとにまとめます。
A. 連帯債務型(ペアローン)で住宅が共有持分、実際の支払が世帯共有の口座の場合
このケースでは、住宅ローン控除は夫婦ともに利用することができます。
注意すべき点は、住宅ローンの連帯債務割合と住宅の持分割合が異なると、差分が贈与とみなされ、さらに贈与分について住宅ローン控除の適用ができなくなってしまうことです。この点を国税庁のQ&Aに基づき解説します。
(例)住宅の取得代金:4,500万円 (住宅の持分は夫婦で1/2ずつの共有)
頭金:500万円
住宅ローン:4,000万円(夫婦の連帯債務)
頭金の500万円を1/2ずつ負担し、住宅ローンを夫が60%、妻が40%の割合で負担するとした場合、夫が負担する住宅ローンは4,000万円の60%に相当する2,400万円となりますが、夫が住宅を取得するための住宅ローンとして負担すべき額は、住宅の持分割合のみである2,000万円(4,000万円×50%)となるため、夫の住宅ローン控除の対象となる借入金は2,000万円となります。差額の400万円に相当する借入金は、妻の住宅取得のために夫が妻に代わって負担する夫の借入金とされてしまいます。
一方、妻の方は、400万円は夫が代わりに負担することとされているため、妻が住宅を取得するための住宅ローンとして負担すべき額は1,600万円だけとなるため、妻の住宅ローン控除の対象となる借入金は1,600万円となってしまい、400万円分が住宅ローン控除の適用ができなくなってしまうということです※1 。
また、夫が妻に代わって負担する借入金は、夫から妻に対する贈与となってしまうことから、金額によっては贈与税がかかってしまう場合があります。
(参考:国税庁 共有の家屋を連帯債務により取得した場合の借入金の額の計算 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/06/36.htm)
※1 仮に、頭金の500万円を夫が1人で負担したということとなると、夫が住宅を取得するための住宅ローンとして負担すべき額は1,750万円(4,500万円×50%-500万円)だけとなり、夫の住宅ローン控除の対象となる借入金は1,750万円となります。そして、2,400万円との差額の650万円に相当する金額は、妻の住宅取得のために夫が妻に代わって負担する夫の借入金とされてしまいます。
一方、妻の方は上記と同様、住宅を取得するための住宅ローンとして負担すべき額は1,600万円だけとなるため、妻の住宅ローン控除の対象となる借入金は1,600万円となります。
B. 連帯債務型(ペアローン)で住宅が共有持分、実際の支払が夫の口座の場合
このケースでは、住宅ローン控除は夫婦ともに利用することができます。
注意すべき点は、上記Aの点に加えて、夫の口座から支払われていることから、連帯債務で取り決めた金額についても、夫から妻への贈与としてみなされてしまう可能性があるということです。
したがって、例えば、「夫の口座から支払われているが、その他の生活費などは妻が負担しており、実質は共有の財産のうちから住宅ローンを返済している」といった場合には、それらが説明できるようにあらかじめ準備しておき、夫が妻に贈与しているわけではないことを証明できるようにしておく必要があるかと思います。
C. 連帯債務型で住宅が夫の単独持分、実際の支払が夫の口座の場合
このケースでは、連帯債務ではありますが、住宅ローン控除は夫単独で100%利用することができます。
注意すべき点は、連帯債務の契約となっているため、妻が一部夫の所有する住宅ローンの返済を肩代わり(贈与)しているとみなされる可能性があるということです。この点は、住宅ローンの審査の都合などで形式的に連帯債務となっているだけで、実際の返済は夫の収入をもとに実施されており、妻は何ら住宅ローンを負担をしていないことを説明する必要があるかと思います。
D. 連帯債務型で住宅が夫の単独持分、実際の支払が共有口座の場合
このケースでは、連帯債務ではありますが、住宅ローン控除は夫単独で100%利用することができます。
注意すべき点は、連帯債務の契約となっており、実際の返済も共有口座から実施されているため、妻が一部夫の所有する住宅ローンの返済を肩代わり(贈与)しているとみなされるということです。この点はCとは異なり、事情の説明により贈与を免れることは難しいかと思います。
ただしA〜D全てのケースで共通で当てはまることですが、仮に毎月の返済が贈与とみなされたとしても、贈与税には基礎控除の概念があり、贈与額から基礎控除(110万円)を引いた額に対して贈与税がかかるため、返済額が年間110万円未満であり、ほかに贈与を受けていないのであれば、贈与税はかかりません。
まとめ
いかがだったでしょうか。
上述したように、連帯債務割合と住宅の持分割合、実際のローンの支払が異なる場合には様々な注意点があることから、事前にお近くの専門家に相談し、対策を取っておくことが必要です。また、税務とは異なりますが、例えば連帯債務なのに、妻が所有者になれないことへの不満や、共有持分なのに実質は夫だけが負担していることについての夫の不満なども、別途リスクとして考えられますので、これらの点も総合的に踏まえて決定していただければと思います。
次回は、離婚をした場合の共有持分の住宅ローン控除の取り扱いについて解説します。
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