【所得税】住宅ローン控除の論点を税理士が解説!〜⑤住宅ローンの借換えをした場合〜
2024/05/08
はじめに
皆様は住宅ローン控除を利用したことがありますでしょうか。
マイホームの購入等に当たっては、通常金融機関から借入を行うこととなりますが、住宅ローンは人生においてとても大きな決断であり、相当なプレッシャーがかかるものかと思います。さらに住宅ローンは通常長期間にわたって金利負担が大きくのしかかり、経済的にも圧迫を受けることとなります。こうした負担を軽減するために制定されたのが住宅ローン控除(正式名称は「住宅借入金等特別控除」と言います。)です。
今回はこの住宅ローン控除について、細かい論点を含め解説いたします。なお、今回は令和5年度の所得税の申告時点に基づく法令にて解説を行いますので、令和6年度の確定申告にあたって改正されたものが公表された場合には、順次解説いたします。
なお、住宅ローン控除の基礎的な情報をまとめたものや、年末調整時に記入する「住宅借入金等特別控除申告書」の書き方などを、別途当ブログにて解説していますので、ぜひそちらも併せてご覧ください。
【基礎論点】所得税の仕組みを税理士が解説!⑮税額計算及び税額控除(住宅借入金等特別控除)
【2023年】年末調整の全てを徹底解説!⑤〜住宅借入金等特別控除申告書の書き方〜
住宅ローン控除の概要
住宅ローン控除とは、個人が住宅ローン等を利用してマイホームの新築、取得または増改築等(以下「取得等」といいます。)をした場合で、一定の要件を満たすときに、その取得等に係る住宅ローン等の年末残高の合計額等を基として計算した金額を、居住の用に供した年分以後の各年分の所得税額から控除する制度のことをいい、細かく「住宅借入金等特別控除」と「特定増改築等住宅借入金等特別控除」に分かれます※ 。
第5回は住宅ローンの借換えをした場合、それまでの住宅ローン控除がどうなるのかを解説いたします。
※ 令和4年以後に住宅ローン等を利用し、特定の増改築等を行い居住の用に供した場合には、特定増改築等住宅借入金等特別控除を受けることができません。
住宅ローンの借換えをした場合の住宅ローン控除
借換え後も引き続き住宅ローン控除が適用できる条件
住宅ローンの検討をする際には、通常金利が低いローンを優先的に選択するかと思いますが、住宅の取得後にさらに金利が低い住宅ローンが登場することも少なくありません。
この時、ローンの借換えを行うことによって以降の金利負担を減らすことが可能になりますが、原則として住宅ローン控除の対象となる住宅ローンは、住宅の取得等のために直接必要な借入金または債務でなければなりません。借換えによる新しい住宅ローンは、厳密には住宅の取得等のための借入ではなく、従前の住宅ローンを消滅させるための借入であるため、原則として住宅ローン控除の対象とはなりません。
しかし、下記の要件の全てを満たすことによって、借換え後の借入についても引き続き住宅ローン控除を受けられます。
① 新しい住宅ローン等が当初の住宅ローン等の返済のためのものであることが明らかであること。
② 新しい住宅ローン等が住宅ローン控除の対象となる要件に当てはまること。
①に関しては借換えをする際に、当初の住宅ローンの繰上返済をしたことを証明できる書類を取得し、保管するようにしましょう。②の詳細な要件については、前回までの解説をご参考ください。
借換えを行なった場合の住宅ローン控除の控除対象額
住宅ローン控除の控除額は、基本的には住宅ローンの年末残高の合計額を基に算出します※1 が、借換えを行なった場合には、「借換え後の借入金の当初金額」が「借換え前の借入金の借換え直前の残高」を下回っている場合は、「借換え後の借入金の年末残高」がそのまま控除対象額となります。一方で、「借換え後の借入金の当初金額」が「借換え前の借入金の借換え直前の残高」を上回っている場合は、「借換え後の借入金の年末残高」のうち、借換え後の借入金の当初金額に対する借換え前の借入金の借換え直前の残高の割合のみが控除対象額となります。
下記で具体例を交えて解説します。
例1: 借換え前の借入金の借換え直前の残高:3,000万円
- 借換え後の借入金の当初金額:2,900万円
- 借換え後の借入金の年末残高:2,800万円
この場合、
控除対象額 = 借換え後の借入金の年末残高 = 2,800万円
となります。
例2: 借換え前の借入金の借換え直前の残高:3,000万円
- 借換え後の借入金の当初金額:3,200万円
- 借換え後の借入金の年末残高:3,100万円
この場合、
控除対象額 = 借換え後の借入金の年末残高 × 借換え前の借入金の借換え直前の残高 / 借換え後の借入金の当初金額
= 3,100万円 × 3,000万円 / 3,200万円 = 2,906.25万円
となります。
借換えをする際に借入金額が増加する場合、年末残高の一部が控除対象外となってしまうことに注意しましょう。
※1 年末残高よりも取得や増改築等の金額が小さいときは、住宅ローンの年末残高の合計額ではなく、取得や増改築等の金額の金額を用います。
また、住宅の取得等に関し、補助金等の交付を受けた場合や、「住宅取得等資金の贈与の特例」を適用した場合には、その補助金等の額を控除します。
まとめ
いかがだったでしょうか。
住宅ローンの借換えを行う際には、住宅ローン控除の借換えが認められるためには適用要件を満たしている必要があること、借換え後の住宅ローンの年末残高の全額が控除対象額にならないケースがあることを覚えておくようにしましょう。
次回は転勤をした場合の住宅ローン控除について解説します。
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