株式会社磯会計センター

意外と知らない年次有給休暇の落とし穴について社労士が解説!⑦〜時季変更権に関する過去の裁判例〜

お問い合わせはこちら

意外と知らない年次有給休暇の落とし穴について社労士が解説!⑦〜時季変更権に関する過去の裁判例〜

意外と知らない年次有給休暇の落とし穴について社労士が解説!⑦〜時季変更権に関する過去の裁判例〜

2025/05/05

はじめに

 近年、コロナ禍で加速した働き方改革をはじめ、人手不足による労働環境の見直しの観点から、休暇に関する企業の考え方が変化しつつあります。その中でも年次有給休暇は労働基準法上規定された労働者の基本の権利です。

 年次有給休暇は、一定の要件を満たす従業員に対して付与されるもので、労働基準法では、労働者の健康を守るために、休日のほか毎年一定日数与えることを規定していますが、当ブログでは今回から、年次有給休暇に関して、意外と知られていない論点や間違えやすい事項を複数回にわたって解説します。

 第7回は時季変更権に関する過去の裁判例についてです。

 

時季変更権に関して争われた裁判例① 〜此花電報電話局事件(最2小判昭和57年3月18日)〜

 判旨

 労働者の年次有給休暇の請求(時季指定)に対する使用者の時季変更権の行使が、労働者の指定した休暇期間が開始し又は経過した後にされた場合であっても、労働者の休暇の請求自体がその指定した休暇期間の始期にきわめて接近してされたため使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったようなときには、それが事前にされなかったことのゆえに直ちに時季変更権の行使が不適法となるものではなく、客観的に右時季変更権を行使しうる事由が存し、かつ、その行使が遅滞なくされたものである場合には、適法な時季変更権の行使があったものとしてその効力を認めるのが相当である。

 

 解説

 此花電報電話局事件は、社員が始業時刻の約20分前に会社に電話をして、出勤していた者に年次有給休暇を請求することを伝えたことに対し、会社は業務に支障が生じる恐れがあると判断し、休暇を必要とする事情によっては、年次有給休暇を認める場合もあると考えて、本人に休暇の理由を確認したものの、従業員は休暇の理由を明らかにすることを拒んだため、会社は年次有給休暇の請求を認めず、欠勤扱いとして賃金を減額したため、従業員が賃金の支払いを求めて会社を提訴した事件です。年次有給休暇直前になされた時期指定に対する時季変更権の行使が有効か否かが争点となりました。 

 従業員が年次有給休暇の取得時季を具体的に指定したときは、会社側の承認という考えが入り込む余地はないことはすでに解説しましたが、従業員の時季指定が直前に行われたため、会社が時季変更権を行使するかどうかを判断する時間的な余裕がない場合は、休暇日が始まる前に時季変更権を行使しなかったとしても直ちに不適法とはならず、客観的に時季変更権を行使できる事由が存在し、かつ、遅滞なく時季変更権を行使した場合は適法なものとして有効と考えられると判断されました。

 

時季変更権に関して争われた裁判例② 〜弘前電報電話局事件(最2小判昭和62年7月10日)〜

 判旨

 年次有給休暇の権利(以下、「年次休暇権」という。)は、労働基準法(以下、「労基法」という。)三九条一、二項の要件の充足により法律上当然に生じ、労働者がその有する年次休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して休暇の時季指定をしたときは、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、右の指定によつて、年次休暇が成立して当該労働日における就労義務が消滅するのであつて、そこには、使用者の年次休暇の承認なるものを観念する余地はない

 この意味において、労働者の年次休暇の時季指定に対応する使用者の義務の内容は、労働者がその権利としての休暇を享受することを妨げてはならないという不作為を基本とするものにほかならないのではあるが、年次休暇権は労基法が労働者に特に認めた権利であり、その実効を確保するために附加金及び刑事罰の制度が設けられていること、及び休暇の時季の選択権が第一次的に労働者に与えられていることにかんがみると、同法の趣旨は、使用者に対し、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる

 そして、勤務割を定めあるいは変更するについての使用者の権限といえども、労基法に基づく年次休暇権の行使により結果として制約を受けることになる場合があるのは当然のことであって、勤務割によってあらかじめ定められていた勤務予定日につき休暇の時季指定がされた場合であつてもなお、使用者は、労働者が休暇を取ることができるよう状況に応じた配慮をすることが要請されるという点においては、異なるところはない。

 労基法三九条三項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かの判断に当たつて、代替勤務者配置の難易は、判断の一要素となるというべきであるが、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であることは明らかである。したがつて、そのような事業場において、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である。そして、年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであるから、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせずに時季変更権を行使することは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないことに等しく、許されないものであり、右時季変更権の行使は、結局、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないものとして、無効といわなければならない。

 

 解説

 弘前電報電話局事件は、従業員が賃金の支払い求めて会社を提訴した事件です。「交代制で勤務する従業員が年次有給休暇の申請をする場合には、あらかじめ代替勤務希望者を募り、希望者があれば勤務割を変更して年次有給休暇が与えられる」という仕組みを採用している会社において、とある従業員が代替勤務者を見つけたにも関わらず、その休暇の利用目的が成田空港反対現地集会に参加することであったため、当該従業員が違法な行為に及ぶおそれがあると考え、使用者が当該従業員の参加を阻止するために、代替勤務者を説得し代替勤務を撤回させ、同日に当該従業員が出勤しなければ必要な配置人数を欠くとして、時季変更権を行使しました。結局当該従業員はその日は出勤しなかったため、会社が当日分の賃金を支払わなかったことから、従業員が訴えを提起しました。ここでは、交代制で働く労働者の年次有給休暇の時期指定について、使用者が状況に応じた配慮をせず勤務割を変更しなかった場合の時季変更権の行使の有効性が争点となりました。

 判例では、使用者には労働者が指定した時季に休暇が取れるように、状況に応じた配慮をする義務があるとされ、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせずに時季変更権を行使することは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないことに等しく、許されないものであり、右時季変更権の行使は、結局、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないものとして、無効といわなければならないと判断されました。

 

 

時季変更権に関して争われた裁判例③ 〜時事通信社事件(最3小判平成4年6月23日)〜

 判旨

 労働者が長期かつ連続の年次有給休暇を取得しようとする場合においては、それが長期のものであればあるほど、使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずるのが通常である。しかも、使用者にとっては、労働者が時季指定をした時点において、その長期休暇期間中の当該労働者の所属する事業場において予想される業務量の程度、代替勤務者確保の可能性の有無、同じ時季に休暇を指定する他の労働者の人数等の事業活動の正常な運営の確保にかかわる諸般の事情について、これを正確に予測することは困難であり、当該労働者の休暇の取得がもたらす事業運営への支障の有無、程度につき、蓋然性に基づく判断をせざるを得ないことを考えると、労働者が、右の調整を経ることなく、その有する年次有給休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には、これに対する使用者の時季変更権の行使については、右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。もとより、使用者の時期変更権の行使に関する右裁量的判断は、労働者の年次有給休暇の権利を保障している労働基準法三九条の趣旨に沿う、合理的なものでなければならないのであって、右裁量的判断が、同条の趣旨に反し、使用者が労働者に休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理であると認められるときは、同条三項ただし書所定の時季変更権行使の要件を欠くものとして、その行使を違法と判断すべきである。

 

 解説

 時事通信社事件は、従業員が賞与の支払い求めて会社を提訴した事件です。従業員が、約1ヶ月間の連続する年次有給休暇の申し入れをしましたが、会社は、担当者は1ヶ月も連続で不在になると業務に支障があること、代替勤務できる者の確保が困難であることを挙げて、前半部分の2週間の年次有給休暇は認めて、後半部分の年次有給休暇は業務の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使しました。しかし従業員がこれを無視して就業しなかったため、会社は賞与を減額して支給しました。従業員は会社が行った時季変更権の行使は要件を満たしていないとして訴えを提起しました。ここでは、長期連続休暇に対する時季変更権の行使の有効性が争点となりました。

 判例では、年次有給休暇が長期になればなるほど、会社は代替勤務者を確保することが困難になり、事業の正常な運営に支障が生じる可能性が高くなるため、従業員側も事前の調整を図る必要性が生じるとしています。従業員が会社とこのような調整をしないで、長期で連続する年次有給休暇の時季指定を行ったときは、使用者の時季変更権の行使については、ある程度の裁量的判断の余地を認めると判断しています。

 

まとめ

 いかがだったでしょうか。

 今回は時季変更権が認められたケースと認められなかったケースの両方を解説しました。それぞれの事情によって異なりますが、仮に時季変更権を行使したい場合には、代替勤務者の確保などの必要な措置を講じた上で「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するのかというところに着目していただければと思います。

 磯会計センターでは、茨城でお困りの中小事業主様や個人事業主様に、会計・税務・労務から補助金・融資など幅広くサポートをしておりますので、お悩み事がございましたらぜひお気軽にご相談ください。

 

(※当該記事は投稿時点の法令等に基づいて掲載しております。当ウェブサイト上のコンテンツについて、できる限り正確に保つように努めていますが、掲載内容の正確性・完全性・信頼性・最新性を保証するものではございません。)

----------------------------------------------------------------------
株式会社磯会計センター
〒308-0844
茨城県筑西市下野殿852-3 メゾンルーチェⅡ
電話番号 : 0296-24-3630
FAX番号 : 0296-25-1588


----------------------------------------------------------------------

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。