意外と知らない年次有給休暇の落とし穴について社労士が解説!⑥〜出勤率に関する過去の裁判例〜
2025/04/28
はじめに
近年、コロナ禍で加速した働き方改革をはじめ、人手不足による労働環境の見直しの観点から、休暇に関する企業の考え方が変化しつつあります。その中でも年次有給休暇は労働基準法上規定された労働者の基本の権利です。
年次有給休暇は、一定の要件を満たす従業員に対して付与されるもので、労働基準法では、労働者の健康を守るために、休日のほか毎年一定日数与えることを規定していますが、当ブログでは今回から、年次有給休暇に関して、意外と知られていない論点や間違えやすい事項を複数回にわたって解説します。
第6回は出勤率に関する過去の裁判例についてです。
出勤日数に関して争われた裁判例 〜八千代交通事件(最1小判平成25年6月6日)〜
判旨
| 「法39条1項及び2項における前年度の全労働日に係る出勤率が8割以上であることという年次有給休暇権の成立要件は、法の制定時の状況等を踏まえ、労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者をその対象から除外する趣旨で定められたものと解される。このような同条1項及び2項の規定の趣旨に照らすと、前年度の総暦日の中で、就業規則や労働協約等に定められた休日以外の不就労日のうち、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえないものは、不可抗力や使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日等のように当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものは別として、上記出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものと解するのが相当である。 無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり、このような日は使用者の責めに帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから、法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。」 |
解説
八千代交通事件は、解雇により2年余りにわたり就労を拒まれたタクシー会社の社員が、解雇無効の判決が確定して職場復帰した後に、合計5日間の労働日につき年次有給休暇の請求をして就労しなかったところ、会社が年次有給休暇の成立要件を満たさないとして、5日分の賃金を支払わなかった事件です。年次有給休暇権の成立要件(雇入れの日から6か月の継続勤務期間又はその後の1年ごとにおいて全労働日の8割以上出勤したこと)を満たしているか否かが争われました。
本件では、社員は無効な解雇によって就労を拒否されて就労できなかったため、その期間は出勤率を算定する際は、全労働日に含めた上で、その全部を出勤日数に算入するべきであるとの判断がなされました。
出勤率と賃上げに関して争われた裁判例 〜日本シェーリング事件(最1小判平成元年12月14日)〜
判旨
| 本件八〇パーセント条項は、稼働率算定の基礎となる不就労の原因を問わず、欠勤、遅刻、早退等労働者の責に帰すべき原因によるもののほか、年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休業、育児時間、労働災害による休業ないし通院、同盟罷業等労働基準法(以下「労基法」という。)又は労働組合法(以下「労組法」という。)において保障されている各種の権利に基づく不就労を含め、あらゆる原因による不就労を全体としてとらえて前年一年間の稼働率を算出し、それが八〇パーセント以下となる者を翌年度の賃金引上げ対象者から除外するという内容のものであるとしたうえ、同条項は、労基法又は労組法上の権利を行使したことに対し不利益を課すことにより、実質的に上告会社の従業員に対し右各権利を行使することを抑制する機能を有するものであって、全体として公序に反し無効であると判断した。 |
解説
日本シェーリング事件は、会社側が、従業員の稼働率を向上させるために、稼働率が80%以下の者を賃上げの対象から除外する労使協定(以下、80%条項という。)を締結したため、賃上げ対象から除外された従業員が賃金の支払いを求めて提訴した事件です。当該80%条項の稼働率を算定する際に、欠勤、遅刻、早退の他にも、年次有給休暇、生理休暇、慶弔休暇、産前産後休業、育児時間、労働災害による休業通院、組合活動に関する休暇を不就労に当たるものとして計算していることから、80%条項が労働基準法の趣旨に照らして有効かどうかが争われました。
そもそも従業員の稼働率の低下を防止するために、稼働率が低い者に経済的利益を得られないようにする制度自体は、一応の経済的合理性があるため、労働基準法上の権利を害さない範囲であれば、違法とすべきではないとしています。
しかし、当該制度が、労働基準法上の権利に基づくものを不就労として稼働率を算定するものである場合は、労働基準法上の権利が抑制されてしまい、権利を保障した労働基準法の趣旨が実質的に失われてしまうため、公序に反するものとして無効となるとしています。
本件では、80%条項には従業員の都合によるものだけではなく、年次有給休暇、生理休暇、慶弔休暇、産前産後休業、育児時間、労働災害による休業通院、組合活動に関する休暇などの労働基準法上の権利に基づくものも含まれています。しかも賃上げ対象から除外された場合、賞与だけでなくベースアップや退職金の金額にも影響するものであることから、80%条項に該当した者が受ける経済的不利益は大きなものででした。労働基準法上の権利に基づく不就労をなるべく差し控えようと考えさせる抑制力は相当強いものであることから、80%条項は従業員に権利を保障した労働基準法の趣旨を実質的に失わせるものであり、公序に反し無効であると判断されました。
なお、仮に80%条項が締結されていたとしても、直ちにそれが効力を失うわけではなく、労働基準法上の権利に基づかないもののみを不就労として稼働率を算定して運用されている場合は、その効力を否定すべきではないともされています。
まとめ
いかがだったでしょうか。
特に日本シェーリング事件に関連して、賃上げの要件を独自に定めている会社も多いのではないかと思われますが、運用にあたってはその要件が労働基準法の権利を抑制することとなっていないか、あらかじめ確認する様にしましょう。
次回は時季変更権に関する代表的な裁判例について解説します。
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