意外と知らない労働時間の落とし穴について社労士が解説!④〜1か月単位の変形労働時間制〜
2024/12/16
はじめに
企業の労働時間問題に関しては、コロナ禍で加速した働き方改革をはじめ、最近ではさまざまな業種での残業の上限規制が制定されたりと、日々変化が激しい論点であり、かつ適切に労働時間を管理することは、継続的な企業の発展の根底となる事項です。
当ブログでは今回から、このような労働時間問題の中でも、意外と知られていない論点や間違えやすい事項を複数回にわたって解説します。
第4回は1か月単位の変形労働時間制についてです。
1か月単位の変形労働時間制
労働基準法において、1か月単位の変形労働時間制に関しては次のような条文があります。
第三十二条の二
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
②使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。
(出典:e-Gov 法令検索 労働基準法)
業種によっては、1か月の中で繁忙期と閑散期が含まれるものがあり、労働時間が1日8時間、週に40時間の場合、どうしても繁忙期は残業時間が増え、閑散期は作業がないのにもかかわらず、従業員が拘束されてしまうようになってしまいます。このような業務のばらつきに対応できるものが1か月単位の変形労働時間制です。1か月単位の変形労働時間制を採用することによって、例えば、月初と月末が繁忙期で、月中は閑散期の場合、1週目、4週目の週労働時間を50時間、2週目、3週目を30時間とするといった方法が可能となります。
1か月単位の変形労働時間制の採用要件
1か月単位の変形労働時間制は労使協定もしくは、就業規則(就業規則に準ずるものを含む※)によって採用することとなります。労使協定や就業規則は所管労働基準監督署長へ届け出をし、労働者へ周知する必要があります。労使協定や就業規則で定める事項は下記のとおりです。
労使協定又は就業規則等に定める事項 | 内容 |
対象の労働者の範囲 | 全社員以外にも、特定の部署や職種とするのも可能です。 |
変形期間(対象期間と起算日) | 「毎月1日から当月末まで」といったように、いつからいつまでの期間とするのかを決定します。 |
変形期間を平均し、1週間当たりの労働時間が1週間の法定労働時間を超えない定め | 変形期間の所定労働時間の合計を『1週間の法定労働時間 × 変形期間の暦日数 ÷ 7』以内とすることを定めます。 |
各日・各週の具体的な労働時間の定め | 「労働日の各日の労働時間」「休日」「始業終業の時間」「休憩時間」を明確にします。 |
労使協定によって導入する場合、その有効期間 | 就業規則の場合は不要です。 |
ここでいう『1週間の法定労働時間 × 変形期間の暦日数 ÷ 7』以内というのは、例えば下記のような場合をいいます。
【具体例】
1週間の法定労働時間が40時間の事業場で、変形期間を4週間とした場合:『40時間 × 28日 ÷ 7 = 160時間』
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 合計 | |
第1週 | 休 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | 7 | 57 |
第2週 | 休 | 休 | 6 | 6 | 6 | 6 | 休 | 24 |
第3週 | 休 | 休 | 6 | 6 | 6 | 6 | 休 | 24 |
第4週 | 休 | 9 | 9 | 10 | 10 | 10 | 7 | 55 |
※ 労働者が10人以下の場合、就業規則を作成する義務はありませんので、労使協定を結ばない場合は、「就業規則に準ずるもの」を作成し、1か月単位の変形労働時間制を採用することとなります。「就業規則に準ずるもの」は所管労働基準監督署長へ届け出をする必要はありませんが、労働者へ周知する必要があります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
1か月単位の変形労働時間制は、繁忙期と閑散期の業務量による労働時間を調整する制度ですが、労働時間の管理を含め、運用にあたっては労働者が不当な環境に陥らないように配慮する必要があります。導入にあたっては、専門家に相談の上検討することをお勧めします。
次回は1年単位の変形労働時間制について解説します。
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