融資に強い会社になろう!〜8.債務償還年数〜
2024/06/12
はじめに
中小企業や個人事業主は、大企業に比べて資金力が乏しく、事業拡大のためには金融機関からの融資の存在は欠かすことができません。
しかし一言に融資といっても、どういった融資が自分に合っているのか、どのように金融機関と交渉したら良いのかなど、普段金融機関と接する機会のない事業主にとっては不安なことがたくさんあるかと思います。
当ブログでは今回から複数回にわたって、様々な融資に強い会社になるための知識を紹介します。
第8回は債務償還年数について解説します。
債務償還年数とは
「債務償還年数」とは、企業の借入金を返済するまでに必要となる年数のことを表します。金融機関が融資の審査をするにあたって、最も重要視する指標が2つのうちの一つであり、企業の返済能力を測るための指標となります。
債務償還年数の基本的な計算方法は下記のとおりです。
債務償還年数=(借入金)÷(経営利益 + 減価償却 − 法人税等 ± 非経常損益)
計算式の分母は、企業の経常的なキャッシュフローを表しており、キャッシュフローが大きくなればなるほど債務償還年数は短くなるため、企業の返済能力は高いという評価となります。
時代や業種によっても異なりますが、現状はこの債務償還年数が10年以下であれば、健全な財務状態であると判断されます。債務償還年数をむやみに短くしようと繰上償還などを行なってしまうと、逆に資金繰りが悪化する恐れがあるため、この10年というのを一つの目安に、資金計画を立案するのが良いでしょう。
債務償還年数の様々な考え方
上記で債務償還年数の基本的な計算方法を紹介しましたが、債務償還年数は利用する場面や状況によって計算式が若干異なります。今回はその中でも目にする頻度の多い計算式を紹介します。
① 最も厳しい計算方法
債務償還年数 =(借入金 + 役員借入金)÷(経営利益 + 減価償却 − 法人税等 ± 非経常損益)
この計算方法の基本型と異なる点は、役員借入金を分子に含んでいる点です。中小企業の場合、親族のみで経営を行っている事業も多いかと思いますが、仮に代表者やその親族の役員から借入を行っている場合に、それらも企業の債務として認識する考え方となります。
この計算方法はCRD協会という、金融機関の信用情報データベースにおいて採用されている手法です。役員借入金は金融機関からの借入金に比べ、返済期間や利息などが自由に設定でき、最悪返済が不要という見方もできることから、債務ではなく資本とみなす考え方もありますが、この計算方法においては、役員借入金も企業の返済義務のある債務として認識することとなります。
② 原則的な計算方法
債務償還年数 =(借入金 − 正常運転資金)÷(経営利益 + 減価償却 − 法人税等 ± 非経常損益)
この計算方法の基本型と異なる点は、借入金から正常運転資金を控除している点です。企業の一般的な事業運営の流れとしては、まず仕入れを行い、場合によってはそれを製品となるよう加工し、それが販売され、最終的に入金されます。つまり、先に仕入れ等により資金が支出され、入金までにはタイムラグがあります。この間に必要な資金のことを正常運転資金といいます。
この正常運転資金は、事業を営む上では経常的に必要不可欠な資金需要であるため、実質的に返済が不可能な金額といえます。よって借入金のうち正常運転資金を、金融機関としても返済不要とみなし、残額(=要償還債務)について債務償還年数を計算するのです。
正常運転資金は以下の計算式で求められます。
正常運転資金 = 売上債権 + 棚卸資産 − 仕入債務
この計算方法により、正常運転資金を計算した結果、企業によってはマイナスになることもあります。これは例えば仕入れの支払いよりも、売上の入金のほうが早く、運転資金が余剰になるようなケースが該当しますが、このような場合には、正常運転資金はゼロとして計算します。
③ 緩めの計算方法
債務償還年数 =(借入金 − 正常運転資金 − 固定性預金)÷(経営利益 + 減価償却 − 法人税等 ± 非経常損益)
この計算方法の基本型と異なる点は、借入金から正常運転資金を控除している点と、固定性預金を控除している点です。固定性預金とは、事業に必要のない定期預金などの預金のことを指します。これらは即座に借入の返済に充当できる資金であるとも考えられることから、要償還債務から固定性預金を差し引いた金額を基に債務償還年数を算定するのです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
債務償還年数は、前回解説した自己資本比率に比べると認知度が低く、計算も複雑ですが、金融機関にとってはとても重要な指標であるため、ぜひ覚えておくようにしましょう。
次回はリスケジューリングについて解説します。
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