【税金】役員退職金の実務④（退職金と役員退職金の双方の支給があった場合・役員退職金の分割支給）

はじめに

　『役員退職金』は、取締役または監査役が退任した場合に、就任から退任までの期間に応じて支払われる金銭です。役員退職金の支給や計算に関する手続きは、一般の従業員に対する退職金の手続きとは異なる部分があります。ここでは役員退職金の実務上の取り扱いについて、テーマごとに複数回に分けて解説していきます。

　第4回は退職金と役員退職金の双方の支給があった場合及び役員退職金の分割支給についてです。

 

退職金と役員退職金の双方の支給があった場合

　役員に対して退職金を支給する際に、使用人から役員へ昇格した際に退職金見合いを支給していないため、使用人としての退職金と役員退職金を支給するケースがあるかと思います。

　その際の退職所得の計算はパターンごとに次のようになります。

①役員の期間が5年超の場合

→同じ年に２箇所以上から退職金をもらう場合に倣い計算します。

②役員の期間が5年未満で全体の勤続年数が5年超の場合

→役員であった期間の退職手当が「特定役員退職手当等」となるため、下記の計算を行います。

・退職所得の金額 ＝（特定役員退職手当等の収入金額ー特定役員退職所得控除額）＋（一般退職手当等の収入金額ー一般退職所得控除額）× 1/2

イ:特定役員退職所得控除額：AとBの金額の合計額

A:40万円×（特定役員等勤続年数ー重複勤続年数（※2））

B:20万円×重複勤続年数

ロ:一般退職所得控除額：次のAまたはBの金額からイの特定役員退職所得控除額を控除した残額

A:勤続年数が20年以下の場合：40万円×勤続年数

B:勤続年数が20年を超える場合：800万円＋70万円×（勤続年数ー20年）

（※2）「重複勤続年数」とは、特定役員等勤続期間と一般勤続期間との重複期間の年数（1年未満の端数は1年に切り上げます。）をいいます。

文章のみではイメージがしづらいかと思いますので、計算例で確認します。

（計算例）

使用人期間：平成10年4月1日～平成30年3月31日（20年）

使用人兼務役員期間：平成30年4月1日～令和2年3月31日（2年）←重複期間

役員期間：令和2年4月1日～令和4年3月31日（2年）

勤続年数合計：24年

使用人退職金：2,500万円

役員退職金：1,000万円

・特定役員退職所得控除額：40万円×（4年ー2年）＋20万円×2年＝120万円

・一般退職所得控除額：800万円＋70万円×（24年ー20年）ー120万円＝960万円

・退職所得の金額 ＝（1,000万円ー120万円）＋（2,500万円ー960万円）× 1/2=1,650万円

 

役員退職金の分割支給

　役員退職金は在任期間が長ければ長いほど高額になる傾向があり、資金繰りの兼ね合いで一括して支給することが困難なケースが考えられます。前回の記事（【税金】役員退職金の実務②（損金算入時期及び税額計算））で述べたように、役員退職金の損金算入時期は原則として、株主総会の決議等により具体的な金額が確定した日が属する事業年度になるため、株主総会で分割支給を決議することは可能ですが、税務上は株主総会の決議等により具体的な金額が確定した日が属する事業年度に全額が損金算入となります。ただし、①分割支給に合理的な理由が存在し、②いつ支払うのか（実務上は3年以内の〇年〇月〇日と指定するのがベター）を明確にしておくことにより、支払った事業年度において損金の額に算入することも認められると考えられます。

 

まとめ

　いかがだったでしょうか。

　特に退職金と役員退職金の双方の支給があった場合の役員退職金の取り扱いに関しては、計算方法が通常に比べ複雑であるため、税務調査で計算誤りを指摘されないためにも、事前に確認をしておくようにしましょう。

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（本記事は、掲載時点の税制等に基づき記載しております。）