意外と知らない労働時間の落とし穴について社労士が解説!⑥〜フレックスタイム制〜
2024/12/23
はじめに
企業の労働時間問題に関しては、コロナ禍で加速した働き方改革をはじめ、最近ではさまざまな業種での残業の上限規制が制定されたりと、日々変化が激しい論点であり、かつ適切に労働時間を管理することは、継続的な企業の発展の根底となる事項です。
当ブログでは今回から、このような労働時間問題の中でも、意外と知られていない論点や間違えやすい事項を複数回にわたって解説します。
第6回はフレックスタイム制についてです。
フレックスタイム制
労働基準法において、フレックスタイム制に関しては次のような条文があります。
第三十二条の三 使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねることとした労働者については、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第二号の清算期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、一週間において同項の労働時間又は一日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。 (出典:e-Gov 法令検索 労働基準法) |
前回の『意外と知らない労働時間の落とし穴について社労士が解説!④〜1か月単位の変形労働時間制〜』や、『意外と知らない労働時間の落とし穴について社労士が解説!⑤〜1年単位の変形労働時間制〜』で解説した変形労働時間制は、使用者側が労働日や労働時間を決定するものでしたが、フレックスタイム制は、3か月以内の期間で始業時刻と終業時刻の双方を労働者が決定できる制度であり、労働者が自主的に労働時間の配分を行うことが可能となります。
フレックスタイム制の採用要件
フレックスタイム制においてはまず、就業規則等で、始業及び終業の時刻の双方を労働者の決定に委ねることを定める必要があります。その後、労使協定にて、各種の事項を定めるのですが、フレックスタイム制では、精算期間というフレックスタイム制の期間を1か月以内にするか、1か月を超え、3か月以内とするかで、要件が若干異なります。
精算期間が1か月以内の場合:労使協定(有効期限の定めは不要)の届出は不要
労使協定に定める事項 | 内容 |
対象の労働者の範囲 | 全社員以外にも、特定の部署や職種とするのも可能です。 |
精算期間 |
「4月1日から6月30日まで」といったように、3か月以内の範囲でいつからいつまでの期間とす るのかを決定します。 |
精算期間における総労働時間 |
精算期間中の所定労働時間の合計を『法定労働時間(特例事業の場合は週44時間)の総枠』 の範囲内とするように定めます。 |
標準となる1日の労働時間 | 労働日数は不要で、時間数のみ定めれば大丈夫です。 |
労使協定の有効期間 | 労働協約の場合は不要です。 |
コアタイム・フレキシブルタイムの定め |
労働しなければならない時間帯(コアタイム)や、選択により労働することができる時間帯 (フレキシブルタイム)を設ける場合には、その時間帯の開始時刻と終了時刻を定めます。 |
精算期間が1か月を超え3か月以内の場合:労使協定(有効期限の定めが必要)の届出が必要
労使協定に定める事項 | 内容 |
対象の労働者の範囲 | 全社員以外にも、特定の部署や職種とするのも可能です。 |
精算期間 |
「4月1日から6月30日まで」といったように、3か月以内の範囲でいつからいつまでの期間とす るのかを決定します。 |
精算期間における総労働時間 |
精算期間中の所定労働時間の合計を『法定労働時間(特例事業であっても週40時間)の総枠』 の範囲内とするように定めます。 |
区分期間における労働時間 |
区分期間(清算期間の開始日から1か月ごとに区分した期間)を平均し、1週間当たりの労働時 間が50時間を超えないことを定めます。 |
標準となる1日の労働時間 | 労働日数は不要で、時間数のみ定めれば大丈夫です。 |
労使協定の有効期間 | 労働協約の場合は不要です。 |
コアタイム・フレキシブルタイムの定め |
労働しなければならない時間帯(コアタイム)や、選択により労働することができる時間帯 (フレキシブルタイム)を設ける場合には、その時間帯の開始時刻と終了時刻を定めます。 |
具体的には、下記のように労働時間の総枠を決定し、下記のように労働した場合は、割増賃金の支払い義務が発生しないこととなります。
月(暦日数) | 月間法定労働時間の総枠 | 月間実労働時間 | 1週間平均の実労働時間数 |
4月(30日) | 171.4時間(40時間 × 30日 / 7) | 200時間 | 46.7時間(200時間 / 30日 / 7) |
5月(31日) | 177.1時間(40時間 × 31日 / 7) | 170時間 | 38.4時間(180時間 / 31日 / 7) |
6月(30日) | 171.4時間(40時間 × 30日 / 7) | 140時間 | 32.7時間(140時間 / 30日 / 7) |
合計 | 519.9時間 | 510時間 |
- |
上記であれば、区分期間のすべてにおいて1週間平均の実労働時間数が50時間以上を超えておらず、かつ、精算期間合計の法定労働時間の総枠(519.9時間)も超えていません。
なお、上記のケースでは、実労働時間の合計は9.9時間分不足していますが、この不足した部分を次の精算期間において上乗せして労働させることは認められています。反対に実労働時間が過剰であった場合には、過剰の部分を次の精算期間において控除することは認められておらず、必ず割増賃金を支払う必要がありますので注意しましょう。
中途採用・途中退職者に対する賃金精算
1か月を超えるフレックスタイム制を採用する事業場において、労働者が途中で退職した場合や、精算期間の途中で入社した場合については、決められた労働日数や労働時間通りに勤務した場合、その労働した期間を平均すると1週間あたり40時間を超えているといった場合があります。このような場合には、たとえフレックスタイム制によって決められた労働時間の枠内での労働であったとしても、1週間平均の実労働時間が週40時間を超えた部分の労働時間については割増賃金を払わなければなりません。
まとめ
いかがだったでしょうか。
フレックスタイム制は、他の変形労働時間制に比べると自由なイメージがあるかと思いますが、客観的な方法で労働時間を把握しなければならないことはもちろん、従業員のコミュニケーションの問題など、さまざまな課題もあります。導入にあたっては、専門家に相談の上検討することをお勧めします。
次回は時間外労働について解説します。
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