意外と知らない労働時間の落とし穴について社労士が解説!⑤〜1年単位の変形労働時間制〜
2024/12/19
はじめに
企業の労働時間問題に関しては、コロナ禍で加速した働き方改革をはじめ、最近ではさまざまな業種での残業の上限規制が制定されたりと、日々変化が激しい論点であり、かつ適切に労働時間を管理することは、継続的な企業の発展の根底となる事項です。
当ブログでは今回から、このような労働時間問題の中でも、意外と知られていない論点や間違えやすい事項を複数回にわたって解説します。
第5回は1年単位の変形労働時間制についてです。
1年単位の変形労働時間制
労働基準法において、1年単位の変形労働時間制に関しては次のような条文があります。
第三十二条の四 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、第三十二条の規定にかかわらず、その協定で第二号の対象期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において、当該協定(次項の規定による定めをした場合においては、その定めを含む。)で定めるところにより、特定された週において同条第一項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。 (出典:e-Gov 法令検索 労働基準法) |
前回の『意外と知らない労働時間の落とし穴について社労士が解説!④〜1か月単位の変形労働時間制〜』で解説したのと同様に、デパートや私立学校など、業種によっては、1年の中で繁忙期と閑散期が含まれるものがあり、このような業種に対して、労働時間の効率的な配分を行うために設けられたものが1年単位の変形労働時間制です。1年単位の変形労働時間制を採用することによって、繁忙期の週労働時間を通常よりも増やし、閑散期の週労働時間を通常よりも減らすことが可能となります。
1年単位の変形労働時間制の採用要件
1年単位の変形労働時間制は労使協定もしくは労働協約によって採用することとなります。労使協定は所管労働基準監督署長へ届け出をし、労働者へ周知する必要があります。労使協定で定める事項は下記のとおりです。
労使協定又は就業規則等に定める事項 | 内容 |
対象の労働者の範囲 | 全社員以外にも、特定の部署や職種とするのも可能です。 |
対象期間 | 「4月1日から3月31日まで」といったように、1か月を超え1年以内の範囲でいつからいつまでの期間とするのかを決定します。 |
特定期間 | 対象期間中の特に業務が繁忙な時期を定めます。1年間を対象機関とする場合には、実務的には3〜4ヶ月程度 |
対象期間における労働日及びその労働日ごとの労働時間 | 対象期間の所定労働時間の合計を『40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7』以内とするように定めます。 |
労使協定の有効期間 | 労働協約の場合は不要です。 |
対象期間における労働日及びその労働日ごとの労働時間について
1年単位の変形労働時間制であっても、原則として労働日や休日を特定する必要があります。しかし、対象期間が1年などのように長期にわたる場合、1年間のすべての日について、具体的な労働日と労働時間をあらかじめ定めることは実務上困難かと思います。そこで、対象期間を1ヶ月以上の期間ごとに区分して、最初の期間の労働日と労働時間を定めれば、後の期間については、各期間の労働日数と総労働時間を定めれば足りることとなっています。後の期間の具体的な労働日と労働時間は、各期間の初日の30日前に、過半数労働者等の同意を得て、書面にて定めることによって決定していきます。
また、1ヶ月単位の変形労働時間制は各日や各週の労働時間等に細かな制限はありませんでしたが、1年単位の変形労働時間制はこれを同様に認めてしまうと、長期間にわたって合法的に長時間労働を行わせることが可能になってしまうことから、下記のような制限が設けられて下記のような制限が設けられています。
① 対象期間中の1日の限度を10時間とすること
② 対象期間中の1週間の限度を52時間とすること
③ 対象期間中に、1週間の労働時間が48時間を超える週を連続して3以下とすること
④ 対象期間中(3ヶ月を超える場合は3ヶ月)に、1週間の労働時間が48時間を超える週の初日の数を3以下とすること
⑤ 対象期間中の連続労働日数を6日以下(特定期間は12日以下)とすること
⑥ 対象期間が3ヶ月を超える場合、対象期間について1年あたりの労働日数を280日以内とすること(3ヶ月を超え、1年未満の場合は暦日数で按分)
中途採用・途中退職者に対する賃金精算
1年単位の変形労働時間制を採用する労働者が退職した場合や、対象期間の途中で入社した場合については、決められた労働日数や労働時間通りに勤務した場合、その労働した期間を平均すると1週間あたり40時間を超えているといった場合があります。このような場合には、たとえ1年単位の変形労働時間制によって決められた時間内の労働であったとしても、超えた部分の労働時間については割増賃金を払わなければなりません。
まとめ
いかがだったでしょうか。
1年単位の変形労働時間制は、1か月単位の変形労働時間制と同様に、繁忙期と閑散期の業務量による労働時間を調整する制度ですが、対象とする期間が長期にわたるため、運用にあたっては、より労働時間の管理を始め、労働者の健康や生活リズム等に配慮する必要があります。導入にあたっては、専門家に相談の上検討することをお勧めします。
次回はフレックスタイム制について解説します。
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