意外と知らない労働時間の落とし穴について社労士が解説!②〜労働時間の把握方法〜
2024/12/09
はじめに
企業の労働時間問題に関しては、コロナ禍で加速した働き方改革をはじめ、最近ではさまざまな業種での残業の上限規制が制定されたりと、日々変化が激しい論点であり、かつ適切に労働時間を管理することは、継続的な企業の発展の根底となる事項です。
当ブログでは今回から、このような労働時間問題の中でも、意外と知られていない論点や間違えやすい事項を複数回にわたって解説します。
第2回は労働時間の把握方法についてです。
労働時間の把握方法
最近の企業の労働時間の把握方法は、タイムカードによるものが一般的かと思われますが、テレワークの普及や職種の関係により、自己申告制による把握方法を採用する企業が増加しています。自己申告制は、タイムカードによる把握に比較して、不適切な運用がされやすく、過重な長時間労働や未払い賃金の発生の温床になりがちとも言われています。
平成29年1月20日に厚生労働省が、『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』というガイドラインを策定しています。使用者には労働時間を適正に把握する責務があることを前提に、下記の方法により労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録することが求められています。
(1) 原則的な方法
・ 使用者が、自ら現認することにより確認すること
・ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
(2) やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合は、下記の措置を講ずること
① 自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
② 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
③ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
④ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。
⑤ 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。
出典:厚生労働省 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
賃金台帳の作成
使用者は適正に労働時間を把握するだけではなく、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入した賃金台帳を、労働者名簿やタイムカードなどの労働時間を記録する書類と併せて5年間(当分の間は3年間)保管しておかなければなりません。賃金台帳に必要事項を記載していない場合や、虚偽の記載をしている場合は30万円以下の罰金に処されるため注意しましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
労働時間の把握を自己申告制により行っている企業の経営者は、今一度自社の従業員の報告した労働時間が不正確なものになっていないかチェックするようにしましょう。労働基準法における労働時間の基準に違反すると、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」ということで、罰金刑だけでなく、懲役刑も科される可能性があるために、特に注意が必要です。
次回は1ヶ月単位の変形労働時間制について解説します。
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