意外と知らない賃金の落とし穴を社労士が解説!②〜賃金支払いの5原則〜
2024/09/30
はじめに
従業員を雇用する企業であればどこでも、従業員に対して労働の対価として賃金を支払うかと思います。賃金の金額や支払い方などは企業によってさまざまかと思いますが、この賃金には、知っておかないとトラブルになる落とし穴がたくさん存在します。
当ブログでは賃金に関するさまざまな注意点について、複数回にわたって解説します。
今回は賃金支払いの5原則についてです。
賃金支払いの5原則
賃金支払いの5原則とは、労働基準法第24条で定められている賃金支払いの原則のことを指します。
参考:労働基準法第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。 ・参照元:e-Gov法令検索 |
これから5原則の詳細を解説していきます。
① 通貨払いの原則
賃金は原則として通貨で支払う必要があります。つまり、小切手や現物支給は禁止されているということです。
しかし、下記の例外も別途定められています。
A. 労働協約に別段の定めがある場合
「労働協約」とは、労働組合と使用者との間で行う契約のことです。労働協約に別段の定めがある場合、現物支給をすることが可能となります。
B. 個々の労働者の同意を得た場合
個々の労働者の同意を得ることによって、振込による支給が可能になります。また、退職手当に限り小切手による支給も可能となります。
しかし、振込にあたっては、従業員の指定する金融機関の本人名義の口座に振込む必要があり、さらに所定の賃金支払日の午前10時までに払い出しが可能になっている必要があります。
ちなみに、前述した労働協約に別段の定めをした場合であっても、振込による支給をすることはできません。
② 直接払いの原則
賃金は労働者に直接支払わなければならず、親族や代理人などに支払うことは禁止とされています(振込による支給はOK)。しかし、「使者」という、本人の意思を伝達するだけのような者に対して支払うことは、例外として認められています。
③ 全額払いの原則
賃金はその全額を支給しなければならず、使用者が勝手に一部賃金を控除することは禁止とされています。しかし法律による差押があった場合や、所得税や社会保険料等の控除を行う場合、減給の制裁を行う場合については、控除が認められています。
また、その他の控除を行う場合にあたっては、「労使協定」という、労働者の過半数を代表する者が使用者との間の契約を締結する必要があります。
ちなみに、前月の賃金で誤って過払いになってしまったケースで、それを翌月に清算する行為に関しては、当該原則の例外として認められています。
また、労働基準法においては控除する金額に上限は設けられていませんが、民法510条及び民事執行法152条において、賃金の4分の3を超える金額については、使用者側から控除することができず、一旦労働者に支給し、その後清算する必要があるため注意しましょう。
④ 毎月1回以上払いの原則
賃金は原則、毎月1回以上支払わなければなりません。ただし、結婚祝い等の臨時の賃金や、賞与については例外となります。
⑤ 一定期日払いの原則
賃金は原則、一定の期日を定めて支払わなければなりません。具体的には「毎月25日」「毎月月末」といった形で指定し、支給する必要があります。月給制の場合に「毎月第3金曜日」などという指定は、周期が一定せず場合によって大きく間隔が空いてしまうことから禁止とされています。なお、指定した日付が休日となってしまうケースにおいて、支給日を繰り上げたり繰り下げたりする行為は認められています。
ちなみに、プロ野球選手などで「年俸制」を採用しているケースも見受けられますが、年俸制であったとしても、毎月1回以上、一定期日に支払う必要があります(各月の支払額を均等にすることは不要)。
まとめ
いかがだったでしょうか。
普段何気なく支給している賃金でも、場合によっては知らない間に賃金支払いの5原則に違反しているケースもよく見受けられます。今一度ご自身の会社の賃金の支払い方法について、見直してみてはいかがでしょうか。
次回は平均賃金について解説します。
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