フリーランス新法について税理士兼社労士が解説!(2024年11月施行)
2024/09/19
はじめに
フリーランスとは、個人で仕事を請け負う働き方をする人のことを指します。会社の従業員の雇用契約とは異なり、業務委託契約であるため、労働基準法が適用されません。また、取引の際、企業との力関係から不利な契約内容にされたり、支払いを遅らせられたりなど、さまざまな面で弱い立場に置かれています。
このようなフリーランスの立場を改善すべく、2024年11月に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(いわゆる「フリーランス新法」)が施行されます。今回はこのフリーランス新法について、概要から具体的な保護内容について解説します。
(参考:中小企業庁 「フリーランスの取引に関する新しい法律が11月にスタート!」)
フリーランス新法とは
フリーランス新法の概要
フリーランス新法と類似した法律として「下請法」がありますが、下請法は、取引の発注者の資本金が1,000万円超の場合に適用される法律です。フリーランスは資本金1,000万円以下の中小事業主と取引をすることも多いため、下請法ではフリーランスが十分に保護できないこともありました。
フリーランス新法は、上記のような資本金の要件はなく、フリーランスの⽅が安⼼して働ける環境を整備するため、フリーランスと企業の間の取引の適正化とフリーランスの就業環境の整備を図ることを⽬的として定められている法律です。
適用対象者
フリーランス新法の適用となるのは、発注事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合に限られます。ここでいう「特定受託事業者」とは、業務委託の相⼿⽅である事業者で、従業員※ を使⽤しないものをいいます。つまり個人事業主であっても従業員を使⽤していたり、消費者に対し業務委託を行っていたり、業務委託ではなく一般販売を行っていたりする場合には、フリーランス新法の対象外となります。
なお、形式上業務委託をしているであっても、働き⽅の実態が労働者と同様である場合は、労働者とみなされ労働基準法等が適用されることとなるため、事業主の方は注意しましょう。
※ 従業員には短時間・短期間等の⼀時的に雇⽤される者は含みません。
フリーランスの保護内容
フリーランスに対し、どのような対応を実施しなければならないかについては、発注事業者側の要件によって異なります。
実施事項及び発注事業者の要件と実施事項の関係をまとめると次のとおりです。
実施事項
① 書面等による取引条件の明示
② 報酬支払い期日の設定・期日内の支払い
③ 募集情報の的確明示
④ ハラスメント対策に係る体制整備
⑤ 一定の不当行為の禁止
⑥ 育児介護等と業務の両立に対する配慮
⑦ 中途解除等の事前予告・理由開示
発注事業者の要件と実施事項の関係
発注事業者の要件 | 実施事項 |
従業員を使用していない事業者が業務委託を依頼する場合 | ① |
従業員を使用している事業者が業務委託を依頼する場合 | ①,②,③,④,(⑥) |
従業員を使用している事業者で、かつ、 契約の更新も含め、 1ヶ月以上継続して業務委託を依頼する場合 |
①,②,③,④,⑤,(⑥) |
従業員を使用している事業者で、かつ、 契約の更新も含め、6ヶ月以上継続して業務委託を依頼する場合 |
①,②,③,④,⑤,⑥,⑦ |
()は努力義務
上記を見て分かるように、従業員を雇用し、かつ継続的に業務委託を依頼するにつれ、必要とされる実施事項が増えていきます。
それぞれの実施事項について、詳細に確認していきます。
① 書面等による取引条件の明示
業務委託をした場合、その内容が定められないことにつき正当な理由があるものを除き、書⾯や電子メール等により、直ちに、次の取引条件を明⽰する必要があります。
・業務の内容
・報酬の額
・⽀払期⽇
・発注事業者・フリーランスの名称
・業務委託を依頼した⽇
・給付を受領、あるいは、役務提供を受ける⽇
・給付を受領、あるいは、役務提供を受ける場所
・(検査を⾏う場合)検査完了⽇
・(現⾦以外の⽅法で⽀払う場合)報酬の⽀払⽅法に関する必要事項
② 報酬支払い期日の設定・期日内の支払い
発注した物品等を受け取った⽇から、60⽇以内のできる限り早い⽇に報酬⽀払期⽇を設定し、⽀払う必要があります。さらに、再委託の場合で、フリーランスに対し、①再委託である旨②元委託者の社名、氏名、屋号等③元委託者の対価の支払期日を明示した場合には、30日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければなりません。
③ 募集情報の的確明示
新聞や雑誌などで、フリーランスの募集に関する情報を掲載する際には、虚偽の表⽰や誤解を与える表⽰をしてはならず、内容を正確かつ最新のものに保たなければいけません。
④ ハラスメント対策に係る体制整備
フリーランスに対するハラスメント⾏為に関し、次の措置を講じる必要があります。
・ハラスメントを⾏ってはならない旨の⽅針の明確化、⽅針の周知・啓発
・相談や苦情に応じ、 適切に対応するために必要な体制の整備
・ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
・相談をしたことによる不利益取り扱いの禁止 等
⑤ 一定の不当行為の禁止
フリーランスに対し、1か⽉以上の業務委託をする場合には、次の⾏為をすることは禁止されています。
・フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、フリーランスの給付の受領や役務の提供を拒むこと。
・フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。
・フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、返品すること。
・買いたたきを行うこと。
・正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。
・自己のために不当に金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
・フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、内容を変更させたり、やり直しをさせること。
⑥ 育児介護等と業務の両立に対する配慮
フリーランスに対し、6か⽉以上の業務委託をする場合には、フリーランスが育児や介護などと業務を両⽴できるよう、フリーランスの申出に応じて必要な配慮をしなければなりません。
⑦ 中途解除等の事前予告・理由開示
フリーランスに対し、6か⽉以上の業務委託をする場合、業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする際には、原則として30⽇前までに予告しなければならず、予告の⽇から解除⽇までにフリーランスから理由の開⽰の請求があった場合には、第三者の利益を害するおそれがある場合当を除き、理由の開⽰を⾏わなければなりません。
フリーランスの保護内容
フリーランス新法違反の疑いがある場合、公正取引委員会や厚生労働大臣は、対象となる事業者に対し報告をさせたり、検査を行を行うことができ、内容に応じ、指導及び助言・是正措置及び防止措置の勧告を行うことができるとされ、当該勧告に正当な理由なく従わない場合には、是正措置及び防止措置の命令・公表を行うことができるとされています。
さらに以下の場合には刑事罰もあります。
内容 | 刑事罰 |
命令に違反した場合 | 50万円以下の罰金 |
報告をしなかったり、虚偽の報告をしたり、検査を拒んだ場合 (下記の場合を除く) |
50万円以下の罰金 |
ハラスメント防止措置に関して、報告をしなかったり、虚偽の報告をした場合 | 20万円以下の罰金 |
まとめ
いかがだったでしょうか。
中小事業者の中には、多くのフリーランスの方に業務委託をしているケースもあるかと思います。フリーランス新法の施行に先立って、適用対象となる契約を洗い出して、委託内容がフリーランス新法に違反していないかどうかについて検討するようにしましょう。必要に応じて、お近くの専門家とも相談の上、業務委託契約書の修正や、ハラスメント防止措置についての規定の整備を進めることをお勧めします。
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