【基礎論点】所得税の仕組みを税理士が解説!⑨譲渡所得
2024/01/29
はじめに
所得税は、個人の所得に対してかかる税金で、1年間の全ての所得から所得控除を差し引いた残りの課税所得に税率を適用し税額を計算します。(平成25年からは復興特別所得税も併せて徴収されています。)
今回は確定申告を予定している方や、確定申告が必要かどうかわからない人向けに、所得税の基本論点や計算の流れ等を複数回に分けて解説します。第9回は譲渡所得についてです。
譲渡所得とは
譲渡所得とは、資産を譲渡することによって生ずる所得をいいます。譲渡のほか、交換、代物弁済、法人への現物出資、物納、競売、収容等などが含まれます。ただし、事業用の商品などの棚卸資産や山林などの譲渡による所得は、譲渡所得にはならず、事業所得、山林所得になります。また、下記に該当するものは非課税となります。
①生活に通常必要な動産(家具、什器、衣服など)の譲渡
※宝石等、書画、骨董、美術工芸品については、一個の価格(時価)が30万円以下のものに限られます。
②強制換価手続による資産の譲渡
③一定の割引債等の譲渡
④国等に対する財産の寄付、重要文化財の譲渡
⑤相続税法の規定による物納
譲渡所得の計算
譲渡所得は「収入金額ー(取得費+譲渡費用)ー特別控除額」で計算されます。ただし、特別控除額は譲渡所得の内部通算及び生活に通常必要でない資産の損失の控除を行った後の金額に対して行います。
税額の計算
譲渡所得はその資産や保有期間によって、下記のように税額の計算方法が異なります。
区分 | 内容 | 課税方法 |
総合短期譲渡所得 | 土地等又は建物等又は株式等以外に掲げる資産以外の資産の譲渡で保有期間が5年以下のもの |
他の所得と合算し超過累進税率により課税 |
総合長期譲渡所得 | 土地等又は建物等又は株式等以外に掲げる資産以外の資産の譲渡で保有期間が5年超のもの※ | 所得を2分の1したのち、他の所得と合算し超過累進税率により課税 |
分離短期譲渡所得 | 土地等又は建物等の譲渡で譲渡年の1月1日における所有期間が5年以下のもの | 税率30%により分離課税 |
分離長期譲渡所得 | 土地等又は建物等の譲渡で譲渡年の1月1日における所有期間が5年超のもの | 税率15%により分離課税 |
株式等の譲渡 | 株式や出資持分などの譲渡(所有期間は関係なし) | 税率15%により分離課税 |
※保有期間が5年以内であっても、次の資産の譲渡による所得は、総合長期となります。
i. 自己の研究の成果である特許権、実用新案権その他の工業所有権
ii. 自己の著作による著作権
iii. 自己の探鉱によって発見した鉱床の採掘権
収入金額
譲渡所得の収入金額は、通常、土地や建物の譲渡の対価として買主から受け取る金銭の額です。なお、譲渡代金のほかに、譲渡から年末までの期間に対応する固定資産税および都市計画税(未経過固定資産税等)に相当する額の支払を受けた場合には、その額は譲渡価額に算入されます。また、金銭の代わりに物や権利などを受け取った場合も、その物や権利などの時価が収入金額になります。さらに、資産を譲り渡すことによって、その他経済的な利益を受けた場合は、その経済的な利益も収入金額に含まれます。
なお、下記の場合はみなし譲渡として時価により資産の譲渡があったものとみなして譲渡所得としての課税を行うこととなります。
①法人に対して「贈与」又は「遺贈」をした場合
②法人に対して「低額譲渡(時価の2分の1未満の対価で譲渡)」した場合
③個人については、「限定承認に係る相続」又は「包括遺贈のうち限定承認に係る遺贈」による資産の移転があった場合
取得費
取得費とは、売る資産を買った時に直接かかった費用のことをいい、売った資産の購入代金、建築代金、購入手数料のほか、登録免許税、立退料、設備費や改良費なども含まれます。なお、減価する資産(建物、車両など)の取得費は、購入代金または建築代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額となります。
また、取得費がわからない場合には、収入金額の5%相当額を取得費とする特例もあります。
譲渡費用
譲渡費用とは、資産を売るために直接かかった費用のことをいい、仲介手数料や印紙税、立退料などが該当します。
特別控除額
・総合課税に対する特別控除:短期の譲渡益と長期の譲渡益の合計額に対して50万円です
・分離課税に対する特別控除:一定の要件を満たす場合に次のような控除が適用されます。
(イ) 収用等により土地建物を譲渡した場合 ・・・ 5,000万円
(ロ) マイホーム(居住用財産)を譲渡した場合 ・・・ 3,000万円
(被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合・・・ 3,000万円)
(ハ) 特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合 ・・・ 2,000万円
(ニ) 特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合 ・・・ 1,500万円
(ホ) 平成21年及び平成22年に取得した土地等を譲渡した場合・・・1,000万円
(ヘ) 農地保有の合理化等のために農地等を譲渡した場合 ・・・ 800万円
(ト) 低未利用土地等を譲渡した場合 ・・・ 100万円
(出典:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
内部通算
内部通算とは、同年度中に、長期譲渡所得または短期譲渡所得の譲渡損が生じた場合に、他の長期譲渡所得または短期譲渡所得の譲渡益の金額から控除することができる制度です。
当該損益通算は、総合課税同士もしくは分離課税同士のみ認められており、総合課税と分離課税の間の損益通算は認められていません。
生活に通常必要でない資産の損失の控除
"譲渡費用とは"のところで説明したように、通常譲渡所得は生活に通常必要な動産の譲渡のみが考慮されますが、災害や盗難等によって生活に通常必要でない動産が損失を受けた場合には、譲渡所得の計算上、当該金額の取得費相当額(保険金等の額を控除した後の金額)を控除することができます。
当該規定は、総合課税の譲渡所得にのみ適用することができ、控除しきれない損失がある場合には、翌年分の金額の計算上からも控除することができます。
なお、災害や盗難等によって生活に通常必要な動産が損失を受けた場合には、別途雑損控除という取り扱いがあります。こちらは後日解説いたします。
株式等の譲渡
株式等による譲渡については、「一般株式等に係る譲渡所得」と「上場株式等に係る譲渡所得」に分けて課税する方法がとられています。一般株式等及び上場株式等の代表的なものは次の通りです。
・一般株式等(下記のうち上場株式等以外のもの)
① 株式(投資法人の投資口、新株予約権等を含みます)
② 特別の法律により設立された法人等の出資者の持分
③ 投資信託及び特定受益証券発行信託の受益権
④ 公社債(非課税となるものを除きます。)
・上場株式
① 金融商品取引所に上場されている株式等
② 公募投資信託(特定株式投資信託を除きます。)及び公募特定受益証券発行信託の受益権
③ 特定投資法人の投資口
④ 国債および地方債
⑤ 外国債及び外国公社債
⑥ 公募公社債
⑦ 平成27年12月31日以前に発行された公社債(同族会社が発行したものを除きます。)
まとめ
いかがだったでしょうか。
譲渡所得に関して、今回の解説の中では説明できなかった部分(減価償却の計算や、取得費、譲渡費用のその他の例など)もあり、論点が非常に多い所得でもありますので、不安がある場合は専門家に相談することをおすすめします。
次回は一時所得について解説します。
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